男子との分岐点 — 単価ではなく開催数で差がついた
国内男子ツアーの年間賞金総額の推移(実際に開催された大会の合計)
同じ期間の国内男子ツアーを重ねると、分岐がどこで起きたかが見える。
国内男子の年間賞金総額は1993年の41.9億円が長く最高値で、直近の2024年は32.6億円である。ピークから約22%減った。系列上の最大値は2019年の43.6億円だが、この年は米国ツアーとの共催大会1試合(10.5億円)を含んでおり、それを除くと33.1億円で前後の年と変わらない。
逆転は一度では起きていない。指標ごとに時期がずれる。
決定的だったのは試合数である。男子は2006年の29試合から2007年に24試合へ落ち、以後は20試合台で固定された。同じ2年間に女子は33試合から36試合へ増えている。ここで開いた差は、20年たっても埋まっていない。
右の2列に注目したい。1試合あたりの賞金総額では、いまも男子が上回っている。差は1995年の1.9倍から2024年の1.14倍まで縮まったが、逆転はしていない。
ここからは解釈である。分岐は「1試合の価値」ではなく「何試合開けたか」で起きた、と読むのが素直だろう。男子は1試合あたりの規模を保ったまま開催数をほぼ半分にし、女子は開催数を保ったまま1試合あたりを2倍以上にした。国内男子側で何が起きたのかは別の記事にまとめてあるので、以下では女子側で何が効いたのかに絞る。
国内男子ツアーの年間賞金総額(全年)(1973–2024年)
単位: 億円
定義: JGTO 公式サイトのツアースケジュールに「ツアー」区分で掲載された、その年に実際に開催されたレギュラーツアー大会の「賞金総額」の合計(実施ベース)。海外メジャー・ACN ツアーは含まない。共催競技も公式サイトが円建てで掲載しているものは合算している。単位は億円。
注: 1999年の JGTO(日本ゴルフツアー機構)発足以前の年も、JGTO 公式サイトが日本の男子レギュラーツアーの連続した記録として同じスケジュール・ランキングに収録しているため、同一系列として収録した(1999年より前の主催・運営は日本プロゴルフ協会ほか)。
注: 2020年と2021年は新型コロナウイルスの影響で「2020-2021年度」として2シーズンが統合して運営され、JGTO 公式サイトも1つのスケジュールとして掲載している。本系列では同ページ掲載の各大会の開催日(週番号と月日)から暦年を判定して2020年(6大会)と2021年(24大会)に分割した。
注: 2025年は Shinhan Donghae Open の賞金総額が JGTO 公式サイトでウォン建て(15億ウォン)でのみ掲載されており、為替換算をしない方針のため年間合計が確定できず未収録(円建て掲載分24大会の合計は31億6,976万円)。
注: 2026年はシーズン進行中で、日本オープンの賞金総額が「2025年実績」表記の暫定値であり、かつ一部大会が開催調整中のため未収録。
注: 2019年は PGA TOUR との共催大会 ZOZO CHAMPIONSHIP(10億4,832万円)を含むため前後の年より大きく増える。
コンテンツとしての強さ — 毎週見続けさせる設計
中継と配信の形も、他の国内競技とはかなり違う。
協会は2025年2月18日に、2025年から2029年までの5年間、インターネット配信をU-NEXTと組むことを発表した。2026年は日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)のツアー37試合のうち35試合を、初日から最終日まで全ラウンド配信する(日本女子オープンとTOTOジャパンクラシックの2試合は対象外)。下部のステップ・アップ・ツアーも全大会が録画で配信される。
下部ツアーの露出は配信より前から手を打っていた。協会が公開している経緯によれば、2012年にステップ・アップ・ツアーのテレビ放送が始まり、CS放送で全大会の予選から決勝まで各日6時間の生放送が行われている。2017年にはステップ・アップ・ツアーが女子世界ゴルフランキングの対象ツアーに認定された。
競技そのものの作り方も変えている。2015年からコースセッティングを多様化し、優勝スコアの幅をイーブンパー前後から20アンダー超まで広げた。2017年には公開する記録の項目を従来の7から30に増やしている。協会公式SNSのフォロワーは合計82万を超える(2026年年頭時点の協会発表)。
ギャラリーの側にも記録がある。業界団体の日本ゴルフトーナメント振興協会は2016年の報告で、男子ツアーの1試合平均ギャラリー数が1992年の25,000人超から2015年には約14,000人まで減り、この年に女子ツアーを下回ったとしている。
ここからは解釈である。全ラウンドを通しで見られること、下部ツアーまで追えること、記録が細かく公開されていること。この3つはいずれも、毎週見続ける視聴者を作るための設計として一貫している。単発の話題で瞬間的な視聴率を取りにいく作りではなく、シーズンを通した文脈を積み上げる作りだといえる。1試合平均のギャラリー数で女子が男子を上回ったのが2015年であることは、この時期に打った手と時期が符合する。
協会の経営 — 放映権を4年かけて集約した
制度と権利の側でも動いている。
小林浩美が会長に就任したのは2011年で、2013年から「ツアー強化」「組織力強化」「財務基盤構築」の3つを柱に改革を進めてきたと協会は説明している。
最も大きいのは放映権の扱いである。協会は2017年8月に大会主催者との交渉を開始し、2018年12月18日に記者会見とポジションペーパーを公表した。そこで放映権を「テレビ放送、ラジオ放送、インターネット配信その他一切の公衆送信を行う権利」と定義し、これが主催者の施設管理権の一部と、協会が管理する出場選手の肖像権の2つから成るという立場を示した。協会は当時、放映権の帰属が明文化されないまま創立以来51年が経過したと述べている。
交渉は4年に及んだ。2021年10月27日、協会は2022年のJLPGAツアー公認競技すべてについて放映権が協会に帰属すると発表した。地上波・BS・CSに対する放映許諾料は無償としている。インターネット配信の権利はこれに先立って協会が保有しており、2021年10月から配信が始まっていた。
競技運営の制度も並行して整えている。2018年にシーズン途中で出場順位を組み替えるリランキング制度を導入し、同年プロテスト2次予選を54ホールから72ホールに増やした。2019年には予選会の段階を4から2に減らして72ホール制とし、2022年には賞金額の順位ではなく成績をポイント化したメルセデス・ランキングへ移行している。
ここからは解釈である。放映権の一元化が効いたのは、収入源として直接大きいからというより、ツアー全体を1つの商品として設計できるようになったからだと考えられる。権利が大会ごとに分かれていれば、配信の範囲も見せ方も大会ごとにばらつく。協会に集約されて初めて、35試合を同じ条件で全ラウンド配信するといった設計が成り立つ。放映許諾料を無償にしている点も、短期の収入より露出量を優先する判断として読める。ただし協会の収支の内訳は今回参照した公表資料からは確認できなかったため、この読み方は推測を含む。
協会は2027年からの新しいツアーの形に向けて、10年間の長期ビジョンと3か年の中期経営計画を策定したと公表している。方向は変わっていない。