かつてゴルフの情報に触れる手段は、テレビ中継とゴルフ雑誌のほぼ二択でした。日本で初めてゴルフ専門チャンネルが開局したのは1996年、電通がインターネット広告費の推定を始めたのも1996年の実績分からです。それから30年で、広告費の主役はマスコミ四媒体からインターネットへ入れ替わり、ツアー中継の主戦場も地上波から配信サービスへ移りました。このページでは、その地殻変動を電通・出版科学研究所・総務省・各配信事業者の公表値で追い、最後にそれがプロゴルファーの経済に何を意味するのかを整理します。
1990年代半ばまで、日本でゴルフの情報に触れる入口はごく限られていました。映像はテレビの中継、活字はゴルフ雑誌と新聞のスポーツ面。それ以外の選択肢が事実上存在しなかった時代です。
当時の状況は、3つの年がよく表しています。
| 年 | 出来事 | 意味 |
|---|---|---|
| 2000年 | マスコミ四媒体広告費がピーク(3兆9,707億円) | 新聞・雑誌・ラジオ・テレビに広告費が最も集まった年。1990年代を通じて3.5兆〜4.0兆円の高い水準が続いた |
| 1996年 | ゴルフ専門チャンネル「ゴルフネットワーク」開局 | それまで日本にゴルフ専門の放送枠は存在しなかった |
| 1996年 | 電通がインターネット広告費の推定を開始(1996年の実績分から) | 1995年以前、ネット広告は統計上ほぼ存在しない |
活字側のピークはもう少し後にきます。全国出版協会・出版科学研究所は、月刊誌・週刊誌ともに推定販売金額のピークを1997年としています。
つまり、ゴルフが日本で最も広く遊ばれていた時期(コース参加人口のピークは1994年)と、マスメディアが最も大きかった時期は、1990年代から2000年前後にかけて重なっています。プロの試合が地上波で流れ、専門誌が書店に平積みされるという露出のかたちは、この重なりの上に成り立っていました。逆に言えば、限られた枠しか存在しないという希少性そのものが、トーナメント中継や誌面広告の価値を支えていたことになります。ここから先は、その前提がどう崩れたかを公表値で追います。
定義: 電通「日本の広告費」が公表するマスコミ四媒体広告費(新聞・雑誌・ラジオ・テレビの合計、媒体料と広告制作費を含む)。1987〜2013年は電通「2025年 日本の広告費」参考資料1「マスコミ四媒体広告費」行の値、2014〜2025年は各年の電通公式発表ページに掲載された公表値。推計はいずれも1〜12月の暦年ベース。
注: 電通は2007年発表時に推定範囲を2005年に遡及して改定した(第2次改定)。雑誌広告費が2005年で改定前3,945億円/改定後4,842億円に変わるなど四媒体の水準も変化しており、2004年以前と2005年以降は接続しない。
注: 2014年発表分から「テレビ」区分が「テレビメディア(地上波テレビ+衛星メディア関連)」に変更された。本系列は各年の公表値を採用しているため、2013年以前は地上波テレビのみ、2014年以降は衛星メディア関連を含む。電通が2012年に遡及集計したテレビメディア基準では2012年28,809億円・2013年28,935億円に相当する(資料2の新聞・雑誌・ラジオ・テレビメディアの合算)。
注: 1985年に遡及した第1次改定(1987年発表)以降の系列であり、1986年以前は含めていない。
広告費は、メディアの力関係が最も正直に出る指標です。電通「日本の広告費」の公表値では、逆転は3段階で起きました。
| 年 | 起きたこと | 電通の公表値 |
|---|---|---|
| 2019年 | インターネット広告費がテレビメディア広告費を初めて上回る | ネット2兆1,048億円/テレビメディア1兆8,612億円 |
| 2021年 | インターネット広告費がマスコミ四媒体広告費を初めて上回る | ネット2兆7,052億円/四媒体2兆4,538億円 |
| 2025年 | インターネット広告費が総広告費の半数を初めて超える | ネット4兆459億円(構成比50.2%)/四媒体2兆2,980億円(同28.5%) |
見落とされやすいのは、マス媒体が消えたわけではないという点です。2025年のマスコミ四媒体広告費2兆2,980億円は、2000年のピーク3兆9,707億円のおよそ58%(22,980÷39,707=0.579)。3分の1以上を失いましたが、いまも2兆円台の規模があります。
変わったのは絶対額よりも相対的な位置です。総広告費に占める四媒体の構成比は28.5%まで下がり、広告主から見れば「テレビと新聞に出せば届く」という前提が成立しなくなりました。ゴルフの文脈では、これはトーナメント中継の枠がかつてのように自動的な価値を持たなくなったことを意味します。
なお、インターネット広告費には2018年に「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」、2019年に「物販系ECプラットフォーム広告費」が推定範囲として加わっています。伸びの一部は推定範囲の拡大によるもので、下の表の注記もあわせてご確認ください。
定義: 電通「日本の広告費」の公表値から算出した、日本の総広告費に占めるインターネット広告費の構成比。計算式は「インターネット広告費 ÷ 総広告費 × 100」で、分子・分母とも電通「2025年 日本の広告費」(2026年3月発表)に掲載された公表値をそのまま用いる(総広告費は資料1、インターネット広告費は1996〜1998年が参考資料1、1999年以降が資料2)。インターネット広告費は媒体費・広告制作費・物販系ECプラットフォーム広告費を含む電通の推定値で、1996年が推定開始年。小数第2位まで保持し、表示は小数第1位。
注: 電通は2007年発表時に推定範囲を2005年に遡及して改定した(第2次改定)。2005年のインターネット広告費は改定前2,808億円/改定後3,777億円、総広告費は改定前59,625億円/改定後68,235億円で、本系列は2005年以降を改定後の値で統一している。1996〜2004年は改定前の系列であり、2005年をまたぐ比較には注意。
注: 2018年発表分から「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」が、2019年発表分から「物販系ECプラットフォーム広告費」(2019年は1,064億円)がインターネット広告費に追加推定されている。いずれも遡及集計されていないため、2017→2018、2018→2019の伸びには推定範囲の拡大分が含まれる。
注: 電通自身が公表する構成比(2023年45.5%、2024年47.6%)と本系列の算出値は一致する。
出版科学研究所は、月刊誌・週刊誌ともに推定販売金額のピークを1997年とし、週刊誌については「ピーク時の6分の1以下にまで縮小している」と説明しています。同研究所の解説には、休刊点数が創刊点数を上回って総銘柄数が減り続けていること、メジャーな雑誌でも不定期刊やムックへ移行していることも記されています。
ゴルフ専門誌も例外ではありません。同研究所は、分冊百科以外で休刊が出た例として2021年の『週刊パーゴルフ』を挙げています。週刊のゴルフ誌が担っていた「今週の試合と最新ギアを紙で追う」という役割は、速報性の面でウェブメディアに置き換わりました。
このセクションのデータには限界があります。下の表は出版科学研究所のニュースリリースで一次確認できた年だけを収録しており、2018年・2019年と2016年以前は入っていません。同研究所の公式サイトが2021年にリニューアルされ、それ以前のリリースのアーカイブが残っていないためです。年ごとの数値がそろっている『出版指標 年報』は有料の刊行物のため、推測での穴埋めはしていません。
また、ここに出ているのは紙の雑誌全体の金額で、ゴルフ専門誌だけの部数ではありません。ゴルフ雑誌ごとの部数推移は、ゴルフ雑誌を扱ったページで詳しく整理しています。
| 年 | 日本の雑誌販売額(紙・ゴルフ誌以外も含む全体) | 出典 |
|---|---|---|
| 2017 | 6,548 | 2017年の出版市場発表(全国出版協会・出版科学研究所 2018年1月25日/『出版月報』2018年1月号) |
| 2020 | 5,576 | 2020年の出版市場発表(全国出版協会・出版科学研究所 2021年1月25日/『出版月報』2021年1月号) |
| 2021 | 5,276 | 2021年出版市場(紙+電子)ニュースリリース(全国出版協会・出版科学研究所/『出版月報』2022年1月号) |
| 2022 | 4,795 | 2022年出版市場(紙+電子)ニュースリリース(全国出版協会・出版科学研究所/『出版月報』2023年1月号) |
| 2023 | 4,418 | 2023年出版市場(紙+電子)ニュースリリース(全国出版協会・出版科学研究所/『季刊 出版指標』2024年冬号) |
| 2024 | 4,119 | 2024年出版市場(紙+電子)ニュースリリース(全国出版協会・出版科学研究所/『季刊 出版指標』2025年冬号) |
| 2025 | 3,708 | 2025年出版市場(紙+電子)ニュースリリース(全国出版協会・出版科学研究所/『季刊 出版指標』2026年冬号) |
定義: 全国出版協会・出版科学研究所が発表する、紙の雑誌の推定販売金額(取次ルート経由)。月刊誌(定期誌・ムック・コミックス単行本を含む)と週刊誌の合計で、電子雑誌・電子コミックは含まない。暦年(1〜12月期累計)ベース。数値は各年1月に発表される同研究所のニュースリリースの公表値。
注: 電子出版(電子雑誌・電子コミック)は含まない。紙の雑誌のみの数値。
注: コミックス単行本とムックは「月刊誌」に含まれるため、いわゆる定期刊行の雑誌だけの金額ではない。
注: 2018年・2019年および2016年以前は入っていない。出版科学研究所の公式サイトは2021年4月に全面リニューアルされ、ニュースリリースのアーカイブが2021年3月以降分(および2018年1月分)しか残っていないため、一次ソースで確認できた年のみを収録している(年次系列の正本『出版指標 年報』は有料刊行物、公式サイトの年次推移はグラフ画像のみで数値が読めない)。
ゴルフ中継そのものも、置かれる場所が変わりました。各社の公式発表で確認できる範囲を年表にすると次のようになります。
| 時期 | 出来事 | 一次ソース |
|---|---|---|
| 1996年 | 日本唯一のゴルフ専門チャンネル「ゴルフネットワーク」が開局 | ゴルフネットワーク公式 |
| 2024年 | 日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)のツアー全37大会のうち35大会をDAZNとU-NEXTがネット配信(日本女子オープンとTOTOジャパンクラシックを除く) | JLPGA公式 |
| 2025年 | U-NEXTが国内女子ツアーを5年間の独占配信に。男子の海外メジャー4大会も単一プラットフォームでは史上初の全戦配信 | U-NEXT公式 |
| 2026年 | U-NEXTがLPGAツアーと海外女子メジャー5大会も独占配信。ゴルフ特化の「ワールドゴルフパック」(月額2,600円・税込)を提供開始 | U-NEXT公式 |
国内男子の下部ツアーは、現在は日本ゴルフツアー機構(JGTO)の公式YouTubeチャンネル「JGTOTV」で中継されています。同チャンネルには、動画配信事業者が冠スポンサーだった「ABEMAツアー」時代の中継動画も残っており、下部ツアーの露出がテレビ枠を経由せずネット側で完結してきた経緯が見て取れます。
整理すると、放送から配信への移行は「テレビが無くなる」形では起きていません。地上波とBS/CSの中継は続いており、そこにDAZN・U-NEXT・YouTubeという配信の層が重なった結果、視聴者が試合にたどり着く導線が複数に分かれた、というのが実態に近い姿です。ただし独占配信が増えるほど、見たい試合ごとに必要なサービスが増えるという副作用もあります。
配信サービス以前に、視聴者の時間そのものが動いています。総務省情報通信政策研究所の調査による、全年代平均の1日あたり利用時間は次のとおりです。
| 調査年度 | 平日テレビ | 平日ネット | 休日テレビ | 休日ネット |
|---|---|---|---|---|
| 令和4年度 | 163.5分 | 154.7分 | 207.2分 | 164.3分 |
| 令和5年度 | 162.9分 | 173.6分 | 202.0分 | 179.7分 |
| 令和6年度 | 154.7分 | 181.8分 | 182.7分 | 183.7分 |
平日は令和5年度に、休日は令和6年度に、インターネット利用時間がテレビ視聴時間を上回りました。同じ調査ではYouTubeの利用率が10代から40代で90%を超えています。日本生産性本部『レジャー白書2025』でも、余暇活動の参加人口で「動画鑑賞」が2位に浮上したと報じられています。
この環境では、発信者になるためにテレビ局や出版社を通す必要がありません。ツアー団体は自前のチャンネルを持ち(JGTOの「JGTOTV」、JLPGA公式チャンネル)、選手・ティーチングプロ・ゴルフショップ・用品メーカーもそれぞれ発信しています。かつて「メディアに出る」ことは編成や編集を通過することでしたが、いまは通過しないルートが常時開いています。
ここで重要なのは、露出の総量が増えたことよりも、露出の希少性が下がったことです。誰でも出られるということは、出ていること自体には値段が付きにくくなるということでもあります。ゴルフ系チャンネルの登録者数や収益構造は、ゴルフYouTubeを扱ったページで詳しく整理しています。
ここまでは公表値にもとづく事実です。ここからは、その事実から何が言えそうかという仮説を、根拠と限界を分けて書きます。
トーナメントの冠協賛は、多くの場合スポンサー企業の広告・広報予算から支出されます。その配分の中で、テレビ中継を伴う大会協賛の相対的な位置づけが下がっているのではないか、というのがここでの仮説です。ネット広告は効果測定が細かく、同じ金額をインフルエンサー起用や自社チャンネルの運用に振り向ける選択肢も増えました。露出の希少性が下がるほど、大会を冠することでしか得られない価値は、あらためて説明を求められます。
プロゴルファーの収入は、賞金・契約・レッスン・メディア出演の組み合わせで決まります。男子と女子、レギュラーツアーと下部ツアー、ツアープロとティーチングプロでは事情が大きく異なるため、この記事で示した構造変化がそれぞれにどう効くかは、プロの経済を扱うページで個別に検証します。
本ページの図表・数表は、出典を明記のうえ転載・引用いただけます(例: 「ゴルフスケール(golfscale.jp)調べ・原典: 各出典欄参照」)。数値の原典は各表の出典欄のとおりです。データの更新・訂正が入る場合があるため、引用時は本ページの URL の併記をおすすめします。
いいえ。地上波とBS/CSの中継は続いています。変わったのは選択肢のほうで、2024年には国内女子ツアーの大半がDAZN・U-NEXTでネット配信され、2025年からはU-NEXTが国内女子ツアーを独占配信しています。国内男子の下部ツアーはJGTO公式YouTubeチャンネルで中継されています。テレビが消えたのではなく、配信の層が重なった状態です。
電通「日本の広告費」によると2019年です(インターネット2兆1,048億円に対し、テレビメディア1兆8,612億円)。マスコミ四媒体の合計を上回ったのは2021年(インターネット2兆7,052億円に対し、四媒体2兆4,538億円)、総広告費の半数を初めて超えたのは2025年(構成比50.2%)です。
雑誌市場全体としては縮小が続いています。出版科学研究所は月刊誌・週刊誌ともにピークを1997年とし、週刊誌はピーク時の6分の1以下としています。ゴルフ関連では2021年に『週刊パーゴルフ』が休刊しました。ただしこのページの表は紙の雑誌全体の金額で、ゴルフ専門誌だけの部数ではありません。
各社の公式発表の範囲では、国内女子ツアー(JLPGAツアー)はU-NEXTが独占ライブ配信しており、テレビ中継も並行しています。国内男子の下部ツアーはJGTO公式YouTubeチャンネル「JGTOTV」で中継されています。海外の主要ツアーについてはU-NEXTが「ワールドゴルフパック」(月額2,600円・税込)を提供しています。配信契約は年ごとに変わるため、視聴前に各大会の公式発表を確認してください。
役割が異なります。YouTubeはレッスン・ギア紹介・ラウンド動画など「いつでも見られる」内容が中心で、レギュラーツアーのライブ中継は放映権を持つ放送局や配信サービスが担っています。一方で国内男子の下部ツアーのように、YouTubeがライブ中継の主戦場になっている領域もあります。
直結すると断定できるデータはありません。広告費の構造が変わればスポンサー予算の配分も変わりうる、というのは合理的な仮説ですが、大会数や賞金額は景気・企業再編・放映権料・開催コストなど複数の要因で動きます。同じ環境下でも国内男子ツアーと国内女子ツアーで推移が異なる点も、単一の要因では説明できません。
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最終更新: 2026-08-03