賞金額は公表されている。しかし賞金は売上であって、手元に残るお金ではない。移動も宿泊もキャディへの支払いも、すべて選手の自己負担だからだ。 では、賞金ランキング何位までなら賞金だけで一年をまわせるのか。ここでは国内男子・国内女子それぞれの2025年の順位別賞金と、選手自身が公の場で語った経費の実額を突き合わせて、損益分岐となる順位を試算する。使った数字と計算の順番はすべて開示するので、経費の前提を変えればその場で結果を作り直せる。 先に断っておくと、これは推定であって確定値ではない。経費側には公式の統計が存在しないためである。
プロゴルファーの獲得賞金は、各ツアーの公式サイトで1円単位まで公表されている。しかし賞金は会社でいう売上にあたる数字で、そのまま手取りになるわけではない。試合会場までの移動費も、1週間分の宿泊費も、帯同するキャディへの支払いも、原則として選手の自己負担だからだ。
この記事で答える問いはひとつである。賞金だけを収入とみなしたとき、年間の収支がプラスになるのは賞金ランキング何位までか。答えを出すために、次の3点を先に固定しておく。
賞金の原資である年間賞金総額そのものも、この20年ほど一本調子では動いていない。国内男子は1993年に41.9億円、2019年には海外ツアーとの共催大会を含んで43.6億円まで伸びたが、直近の2024年は32.6億円で、ピークの水準には戻っていない(グラフと全年の数値は下の推移を参照)。分母が増えないなかで順位別の賞金がどうなっているかが、この試算の出発点になる。
順位ごとの賞金がどれだけ稼げているかという結果の側は、プロゴルファーの年収を扱った記事にまとめてある。この記事はその先、稼いだ賞金から何が引かれるのかを扱う。この記事は国内の2ツアーに絞り、収入側だけでなく経費側も費目まで分解して、読者が前提を差し替えて検算できる形にすることを目的とする。
まず収入側を確定させる。2025年シーズンが終わった時点の公式賞金ランキングから、節目の順位の獲得賞金を並べたものが次の表である。国内男子は海外メジャーでの獲得賞金を含む公式ランキング、国内女子は同年の公式データによる。
| 賞金ランキング | 国内男子(JGTO) | 国内女子(JLPGA) |
|---|---|---|
| 1位 | 1億2,023万円 | 2億2,729万円 |
| 10位 | 7,119万円 | 8,489万円 |
| 20位 | 5,299万円 | 5,822万円 |
| 30位 | 4,406万円 | 4,616万円 |
| 40位 | 2,706万円 | 3,766万円 |
| 50位 | 2,001万円 | 2,589万円 |
| 60位 | 1,202万円 | 2,092万円 |
| 65位 | 1,067万円 | 1,948万円 |
| 70位 | 880万円 | 1,757万円 |
| 80位 | 663万円 | 1,545万円 |
| 90位 | 567万円 | 914万円 |
| 95位 | 486万円 | 719万円 |
翌年の出場資格が切れる位置も押さえておく。国内男子は前年の賞金ランキング上位65名までに翌年の出場資格が与えられる。国内女子は賞金額ではなく成績をポイント化したメルセデス・ランキングの上位50名までで、51位から55位には翌年の最初の順位入れ替えまでの出場資格が付く。女子の資格ラインは賞金順位そのものではないが、順位の並びは賞金ランキングとおおむね近い。
ここで目に付くのは、同じ順位でも男女で金額の落ち方がまるで違うことである。50位までは女子が3割ほど上回る程度だが、70位では女子1,757万円に対し男子880万円と2倍の開きになる。男子は中位から下位にかけて賞金カーブが急に落ちる。
50位の獲得賞金を時系列で見ると、国内男子は1993年の2,823万円がピークで、その後は2,000万円前後で足踏みしている。対して国内女子は右肩上がりで、2022年に2,629万円まで伸びた。全年の数値は下の表で確認できる。
定義: JGTO 公式「賞金ランキング(海外メジャー含む)」各年度の50位の選手の獲得賞金額。レギュラーツアーのみ(下部の ACN ツアーの賞金は含まない)。単位は万円。JGTO はこのランキングで賞金王を決定している。
注: 1999年の JGTO(日本ゴルフツアー機構)発足以前の年も、JGTO 公式サイトが日本の男子レギュラーツアーの連続した記録として同じスケジュール・ランキングに収録しているため、同一系列として収録した(1999年より前の主催・運営は日本プロゴルフ協会ほか)。
注: 2020年・2021年は「2020-2021年度」として2シーズン統合の賞金ランキングのみが公表されており、単年の50位額が存在しないため両年とも未収録(統合シーズンの50位は久常涼の1,859万9,070円)。
注: 2026年はシーズン進行中のため未収録。
注: 海外メジャー(マスターズ・全米オープン・全英オープン・全米プロ)での獲得賞金が加算されるため、上位選手ほど国内のみのランキングとの差が出るが、50位前後では両ランキングの額はおおむね一致する。
経費側には公式の統計がない。協会も選手会も、選手の年間経費を集計して公表していない。そこでここでは、公表されている固定費と、選手自身が取材の場で語った実額の2つだけを材料にして積み上げる。出所不明の相場観は使わない。
| 費目 | 1試合あたりの置き方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 帯同キャディへの支払い | 10万円前後(1週間・先方の宿泊食事込みの場合)。日額なら1万円程度 | 男子ツアー選手の説明(2017年)と女子ツアー選手の説明(2021年)がいずれも同水準 |
| 移動・宿泊・食事(選手本人) | 20万円前後 | 女子ツアー選手の説明(2021年) |
| 出場料 | 1万円程度 | 男子・女子とも当時1万800円との説明 |
| コース資料(ヤーデージブック等) | 数千円 | 男子ツアー選手の説明(2017年) |
| 1試合の直接費 合計 | 20万〜30万円 | 上記の積み上げ |
1試合20万〜30万円という水準は、男子ツアーの選手が2017年に語った「1試合にかかる経費が約30万円」という説明と、女子ツアーの選手が2021年に語った「1試合出場するのに少なくとも20〜30万円の出費があります」という説明が一致している。男女で、また4年の間隔をおいて、独立した2つの証言が同じレンジに収まっている点は押さえておきたい。
| 費目 | 年額の置き方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 予選会(QT)の出場料 | 22万円(消費税込み)。前の段階を通過すれば次の段階は免除 | 国内男子の2025年公式実施要項 |
| 予選会の遠征費 | 4段階を戦えば通常の試合の数回分 | 同要項の日程から |
| 協会への会費 | 金額は非公表(定款で別途の会費規程に委任されている) | 国内男子の定款 |
| コーチ・トレーナー・体調管理 | 契約形態により大きく変動。税務上は必要経費と認められる範囲がある | 税理士法人の解説 |
| 用具・ウェア | 契約があれば実質ゼロ、無ければ数十万円以上 | — |
材料にした証言は2017年と2021年のものである。消費者物価指数(総合)は2020年を100として2025年平均で111.9、うち宿泊料は115.6まで上がっている。移動と宿泊が経費の大半を占める以上、当時の20万〜30万円をそのまま使うと過小になる。そこで本試算では1試合あたり25万〜40万円のレンジを採る。
参考までに、2025年の日本人の国内宿泊旅行の1人1回当たり単価は72,412円である(観光庁)。ツアー選手はこれを上回る滞在を毎週、年に20回以上繰り返している計算になる。
年間経費は「1試合の経費×出場試合数」で置く。2025年に実際に開催された試合数は国内男子25試合・国内女子36試合だった。
| 出場試合数\1試合の経費 | 25万円 | 30万円 | 35万円 | 40万円 |
|---|---|---|---|---|
| 20試合 | 500万円 | 600万円 | 700万円 | 800万円 |
| 25試合 | 625万円 | 750万円 | 875万円 | 1,000万円 |
| 30試合 | 750万円 | 900万円 | 1,050万円 | 1,200万円 |
| 36試合 | 900万円 | 1,080万円 | 1,260万円 | 1,440万円 |
この表に、コーチ料やオフシーズンのトレーニングといった試合数に比例しない固定費を年100万〜300万円ほど足したものが、次の章で使う年間経費である。
手順は単純である。前章で置いた年間経費と同じ金額を稼いでいる選手が、2025年の賞金ランキングで何位にいたかを読む。順位のあいだは実額から直線で補間した。
| ケース | 年間経費 | 賞金がこれに並ぶ順位 |
|---|---|---|
| 男子25試合×25万円 | 625万円 | 81位 |
| 男子25試合×30万円 | 750万円 | 76位 |
| 男子25試合×35万円 | 875万円 | 70位 |
| 男子25試合×40万円 | 1,000万円 | 67位 |
| 男子25試合×35万円+固定費250万円 | 1,125万円 | 63位 |
| 女子30試合×25万円 | 750万円 | 93位 |
| 女子30試合×30万円 | 900万円 | 90位 |
| 女子30試合×35万円 | 1,050万円 | 89位 |
| 女子30試合×40万円 | 1,200万円 | 87位 |
| 女子30試合×35万円+固定費250万円 | 1,300万円 | 85位 |
試算の結論は、国内男子で賞金ランキング63〜82位、国内女子で85〜93位である。これより上なら賞金だけで年間の経費をまかなえ、下なら賞金以外の収入がなければ赤字になる。
重要なのは、この分岐点が出場資格ラインとどこで交わるかである。
国内男子の資格ラインである65位の獲得賞金は1,067万円で、試算した分岐レンジのほぼ中心に位置する。つまり男子は、翌年の出場資格を確保できてようやく収支がトントンに届く構造になっている。資格ラインぎりぎりの選手にとって、賞金は経費とほぼ相殺される水準にある。
国内女子の資格ラインである50位の獲得賞金は2,589万円で、最も重い経費前提(1,300万円)と比べても約2倍の余裕がある。分岐点の85〜93位は、資格ラインより35順位以上も下にある。女子は資格を維持できれば賞金だけで明確に黒字が立つ。
1試合の経費を5万円動かすと、分岐点は男子で3〜6順位、女子で1〜3順位動く。男子のほうが賞金カーブが急なぶん、経費の見積もり誤差に敏感である。逆に言えば、女子の85〜93位という結果は前提の置き方にあまり左右されない。
ただし大きな但し書きがある。下位の選手ほど、そもそもその試合数を出場できない。90位前後の選手が年30試合に出場できる保証はなく、実際には出場機会が資格の順位入れ替えに左右される。出場試合数が減れば経費も減るが、賞金はそれ以上に減る。しかもコーチ料やトレーニング費といった固定費は試合数に比例して減らない。したがって現実の分岐点は、この試算よりも上(より上位でなければ黒字にならない側)に寄りやすい。
定義: JLPGA 公式「年間獲得賞金」ランキング(JLPGAツアー)各年の50位の選手の獲得賞金額。レギュラーツアーのみで、ステップ・アップ・ツアーの賞金は含まない。単位は万円。
注: 2020年・2021年は新型コロナウイルスの影響で「2020-21年度」として2シーズン統合の賞金ランキングのみが公表されており、単年の50位額が存在しないため両年とも未収録(統合シーズンの50位は有村智恵の3,201万1,751円)。
注: 1973年は50位が5人同額(5万円)。1974年は50位が2人同額(17万円)。
注: 1972年以前は50位まで順位がつく年がないため未収録。
注: 2026年はシーズン進行中のため未収録。
ここまでは収入を賞金だけに限定してきた。実際の選手の収入には、所属先との契約料、用具メーカーとの契約料、ウェアやキャディバッグへの企業名掲出料が乗る。さらにツアーの外では、レッスンやプロアマ、イベント出演といった収入源もある。
掲出料の水準について、国内女子ツアーの選手が2021年に語った説明では、バイザーが250万円から、シャツの胸が300万円から、シャツの袖が300万円から、キャディバッグが200万円からとされていた。複数の枠が埋まれば、それだけで年1,000万円規模になりうる金額である。
これは前章の分岐点を大きく動かす。契約を持つ選手は、賞金だけで見た分岐点より下の順位でも収支が成り立つ。しかも用具やウェアが現物で支給されれば経費側も下がるので、二重に効く。逆に契約を持たない選手にとっては、前章の試算がほぼそのまま現実になる。
ここから先は解釈になる。契約収入は個別に公表されないため、順位ごとの平均像を作ることはできない。この章で言えるのは、契約収入の有無が損益分岐の位置を数十順位単位で動かすという構造だけである。同じ賞金ランキング70位でも、契約のある選手とない選手では収支がまったく違う——「賞金ランキング何位なら食べていけるか」という問いに単一の答えが出ない最大の理由がここにある。
賞金の原資そのものの動きも押さえておきたい。国内女子の年間賞金総額は2023年の45.2億円がピークで、2025年は43.8億円だった。1試合あたりの賞金総額は国内男子のほうが大きく、2024年で平均約1.4億円、国内女子は2025年で平均約1.2億円である。それでも年間の総額で女子が男子を上回るのは、試合数が36対25と多いためだ。経費は試合数に比例して増えるが、賞金を稼ぐ機会も同じだけ増える。女子のほうが下位順位まで賞金だけで経費をまかなえるのは、この構造による部分が大きい。
ここまでの数字は推定である。読者が結果を評価できるよう、弱い部分を先に開示しておく。
プロゴルファーの業務に関する賞金は、支払時に源泉徴収される。税率は10.21%で、同一人に1回に支払われる金額が100万円を超える場合、その超える部分は20.42%になる(国税庁)。
これは前払いであり、確定申告で経費を差し引いて精算される。利益がゼロなら所得税もゼロになるので、損益分岐の位置そのものは税では動かない。ただし年間を通じて先に差し引かれるぶん、資金繰りは賞金額面より苦しくなる。また、課税売上が一定額を超えれば消費税の納税義務が生じうる点も、分岐点付近の選手には無視できない論点である(この扱いは制度や個々の届出状況によって変わるため、ここでは金額を置いていない)。
試算の結果を、属性ごとに分けて書く。いずれも2025年シーズンの数字にもとづく推定である。
国内男子ツアーの選手——賞金だけで黒字になるのは、試算のレンジで63〜82位。翌年の出場資格ラインである65位の獲得賞金は1,067万円で、このレンジのほぼ中心にある。つまり出場資格を確保できて初めて収支がトントンに届く水準であり、資格ライン付近に余裕はほとんどない。
国内女子ツアーの選手——分岐点は85〜93位。資格ラインである50位の獲得賞金は2,589万円で、最も重い経費前提と比べても約2倍ある。資格を維持できれば賞金だけで黒字が立つ。
資格を失った選手——男女とも、試算上の分岐点は「その試合数に出場できたら」という条件付きである。出場機会が不安定になれば賞金は大きく減る一方、固定費は残る。数字の上での分岐点よりも、出場資格を保てるかどうかのほうが生活の分かれ目として先に効く。
契約収入がある選手——賞金だけで見た分岐点より下でも収支は成り立つ。掲出料の水準からすれば、枠が複数埋まっている選手の実質的な分岐点は、試算より数十順位下にあると考えてよい。
ここから言えるのは、「プロゴルファーは食えない」という言い方も「食える」という言い方も、どちらも粗すぎるということである。国内男子か国内女子か、出場資格があるかないか、契約があるかないか——この3つが違えば、同じ賞金ランキングの順位でも収支はまったく別の姿になる。
この試算は前提を全部開示してある。経費の置き方に納得がいかなければ、早見表の数字を差し替えて読み直してほしい。そのために計算過程を表で出している。
本記事の試算では、国内男子で63〜82位、国内女子で85〜93位が損益分岐の目安です(2025年シーズンの賞金額にもとづく推定)。前提を1試合あたりの経費25万〜40万円、出場試合数25〜30試合に置いた結果で、前提を変えれば位置は動きます。経費側に公式統計がないため確定値ではありません。
選手自身の説明では、帯同キャディへの支払いが1週間で10万円前後、移動・宿泊・食事が1週間で20万円前後、出場料が1万円程度で、合計20万〜30万円というのが2017年・2021年時点の水準でした。その後の物価上昇(消費者物価指数は2020年を100として2025年平均111.9、宿泊料は115.6)を織り込むと、2025年時点では25万〜40万円程度と見るのが妥当です。
国内女子は資格ライン(メルセデス・ランキング上位50名)の獲得賞金が2,589万円で、重めの経費前提と比べても約2倍の余裕があります。国内男子は資格ライン(賞金ランキング上位65名)の獲得賞金が1,067万円で、試算した経費レンジのほぼ中心にあたります。男子は資格を確保してようやくトントンという水準です(いずれも2025年)。
予選を通過できなければその試合の賞金はゼロですが、移動・宿泊・キャディへの支払いは発生します。1試合の経費を25万〜40万円と置くと、予選落ちが1回あるたびにその額がそのまま赤字として積み上がります。2017年に男子ツアーの選手が語った説明では、予選を通過しても最下位付近の賞金は26万円程度で、1試合の経費とほぼ拮抗する水準でした。
プロゴルファーの業務に関する賞金・報酬は支払時に源泉徴収されます。税率は10.21%で、同一人に1回に支払われる金額が100万円を超える部分は20.42%です(国税庁)。これは前払いで、確定申告で経費を差し引いて精算されるため、損益分岐の位置そのものは変わりません。ただし年間を通じて先に差し引かれるので、資金繰りは賞金額面より苦しくなります。
国内男子の2025年の公式実施要項では、各段階の出場料が22万円(消費税込み)です。前の段階を通過した選手は次の段階の出場料が免除されるため、第1段階から勝ち上がる場合の出場料は22万円で済みます。ここに各段階の会場までの遠征費が別途かかります。
個別に公表されないため、順位ごとの平均像は作れません。参考として、2021年時点の国内女子ツアーでは、企業名の掲出料がバイザー250万円から、シャツの胸と袖が各300万円から、キャディバッグ200万円からという説明がありました。契約の有無で収支の姿は大きく変わります。
2025年に実際に開催された試合数は国内男子25試合・国内女子36試合で、年間の賞金総額も女子のほうが大きくなっています。1試合あたりの賞金総額は男子のほうが大きいものの、試合数の差で年間では逆転します。経費は試合数に比例して増えますが賞金を稼ぐ機会も増えるため、女子のほうが下位順位まで賞金だけで経費をまかなえる構造になります。
最終更新: 2026-08-03